ブックストーリー 2018.09.01 up

『帆船の絵のアルバム』 1940年代|布装表紙|個人蔵

依頼主は元教師。太平洋戦争の最中、東京の女学校で国語を教えていた。笑顔のステキな90代の依頼主は、当時の生徒たちにとってもきっと憧れの先生だったのだろう。職員室の窓際の席に座っていると、慕ってくれた2人の教え子が窓の外から手を招いては、ときどきプレゼントをくれたのだという。その中の1つが今回の依頼品のアルバム。表紙と背表紙には、波の上を走る斬新な帆船が描かれている。

結婚して学校を退職したのちに戦争は激化し、まもなく終戦をむかえる。このアルバムには、戦後の激動の時代を生きてきた家族の思い出が収められてきた。みんなで揃って撮った記念写真、お花見に出かけたときのこと、何気ない日常の一コマ。中でも私が大好きな話は、子供たちがうつる写真の下にお祖父さんが「宝物」と書いてくれたというエピソード。だがその写真は、今ははがれてどこかへいってしまったようである。

アルバムには長年の埃や汚れがたまり、中身の台紙はところどころ破れ、ちぎれそうな表紙は黒いテープでつなぎとめられなんとか保っている状態。

今回の修理では、まずは全体の解体とクリーニングを行い、破れた台紙を和紙で補修した。波打っている台紙の紙はプレスでできるだけ平らに戻してから、糸で綴じ直す。特に傷んでいた表紙は、丁寧にテープを取り除いてからもろくなった内側の芯材をはがしていく。芯材を新しく交換しその上に元の表紙を貼り込むことで、元の雰囲気を保ちつつ開きやすいアルバムに仕上げた。

Before
 
After
 

「アルバムがきれいになって、思い出までも鮮やかになるようだわ!」
できあがったアルバムを手にしたときの依頼主の言葉にはっとさせられる。私自身、修理の仕事に携わっておきながら、直してでも引き継ぎたいアルバムも傷んだ本もまだ持っていない。モノを直して使うこと・手でつくることの魅力は、携わった本から教えてもらうことばかりで、その魅力を伝えられたらと思いこのブックストーリーを書くことにした。

私にもいつか、直すことによって過去が蘇るような体験ができるだろうか?今からとても楽しみに思っている。

 

 

*ご依頼主の許可を得て、修理やオーダー製本させていただいた本にまつわるストーリーを紹介しています。

 

 

 

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